廃村跡

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急に湿気が増した。
樹林帯を抜けたところで、視界が開ける。

苔むした石段が、斜面に沿って続いている。
幅は広い。
登山道ではない。

その先に、崩れた石壁があった。
蔦に覆われ、
どちらが建物でどちらが樹木か分からないほど絡み合っている。

高い柱が一本だけ残っている。
細かな文様が彫られていたが、
触れた瞬間に粉となり、風に消えた。

かつては人が集まる場所だったのだろう。
広場のような平地がある。
地面には、規則正しい敷石の名残が見え隠れする。

風が止むと、
どこかで水滴が落ちる音が響いた。
近くに水があるのかもしれない。

屋根は失われ、
天井だったはずの場所に、
太い樹が根を下ろしている。

ここが何だったのか、
想像する材料はほとんど残っていない。
ただ、時間が押し潰した跡だけがある。

今日のビバークはここにする。
石の壁が、風を多少は防いでくれる。

夜になると、
虫の声が一斉に鳴き止んだ。

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